「お会いいただきありが
「お会いいただきありがとう御座います。ワシらは新汲県の住民で申と顧です」
「俺が蜀の島大将軍だ。俺に話があると聞いたが」
どこかの密偵だという前提で話を聞いておくとしよう、幕の中には親衛隊もいる、直接攻撃はまず届かんぞ。
「新汲の南に魏軍の伏兵が居りますのでお気を付けを」
目を細めてことの真偽を探ろうとする、
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兵を伏せる場所は幾らでもある。それと知っていてこちらに報せる理由、そこへ誘い込むつもりか、避けて行軍させるともりなのかを。
「何故俺にそれを教える、そなたは魏の民であろう」
「今日の我らがあるのは荀一族があったため。曹家に尽くし献策を繰り返し忠義を尽くされた荀彧様を謀殺せし魏に恩義など御座いません。荀憚様が曹植様に従い洛陽でお立ちになられたのならば、新汲の民は魏を敵として認め、蜀軍に協力をする所存に御座います」
荀憚の名前を俺の前でことさら出したということは、こいつも曹植から何かを聞かされているクチか。確か荀憚というのは魏の大夫だったのに何故かあの場に居た奴だよな。こうなることを予測して何かしらの備えをさせていたならば、なるほど謀士の肩書は伊達じゃない。
「長老殿の考えは解った。陸司馬、伏兵の存在を周知しておけ」
「御意」
腐っても鯛とはいったものだ、後継者争いに負けてもくすぶっていたわけではなかったか。流石あの曹操の息子だ、どこまでも諦めない執拗さは見上げるところがある。俺も足元をすくわれないように備えるべきだな。
「明日には魏軍が新汲に入城するでしょう、糧食も全て徴発されてしまいます。蜀軍が引き取りに来られるならばご用意いたします」
うーむ、そうなれば新汲に良い未来はないな。さてどうしたものか。返答に時間が掛かっていると鄭参軍が進み出た。
「策が御座います、某に一任されるようお願いいたします」 内容を明かさずに実行させる、こいつを信用しているかどうかもそうだが、さては俺が非難されないように盾になるつもりだな。
「鄭度、見くびるなよ。全ての責任は俺にある、違うか」
「申し訳ございません出過ぎました」
正面に立って陳謝する、だがその場を退きはしない。小さくため息をついて「言ってみろ」恐らく卑怯と罵られるだろう中身を聞くことにする。
「されば謹んで献策させて頂きます。新汲に蜀軍が攻め込み兵糧を奪おうとするが、新汲軍の尽力でこれを撃退する。倉の兵糧は全て魏軍へ供出される。この筋書きで御座います」
それならば長老らが罪を問われる可能性は低い。仮に実現しても曹真は知らなかったとの長老の謝罪を受け入れるだろう、悪魔の所業をな。ここまでで内容に気付いたのは半数、まあそういうことだ。
「混ぜるなら遅効性で死なない程度の毒にしておけよ」
「されば腹下しの類を」
軽く手を振って承認してしまう。戦闘どころの話ではなく、体調不良が続いて日々憔悴する、死人が出なければ現場での対応に終始するだろう。だが実際は死体よりも扱いが面倒だ、戦場では足を引っ張ってしまう分厄介だろうな。
「長老殿、言葉だけでなく実際に兵を動かし事実を作り上げることを。鄭参軍、兵千を預けるので今夜のうちに全て整えておけ」
やれやれと退出を指示すると、改めて魏の領土で戦っているんだなと実感を持つ。逆に蜀に攻め込まれてもこういうことが起こり得る、民に厳しいかどうかだけでなくだ。李厳の治めている江州でもそういう反応を起こす可能性は高いな。そういった土地には恩徳が高い人物を、特に太守などに起用すべきだ。
少しするとまた誰かが傍に来ていたが、今度は確認も無しに幕に入って来る。赤い旗の伝令だった。
「申し上げます、宇山倉の守備隊は離散し、赫将軍の部隊が無傷で占領しました!」