…暑い

…暑い。だらだらと流れる汗を拭い、サンサンと降り注ぐ日差しを仰ぐ。土佐を後にした紫音は、再び京へ訪れた。約半年振りとなる京の町に入ると、記憶にある京が広がっている。碁盤の目のような整然とした町の中で、紫音は休憩する為に茶屋に入った。普段と何ら変わらない様子に見えるが、その実、張り詰めたような空気を感じる。居心地の悪さに、紫音はふぅ、と息をついた。栄太郎さんは元気だろうか?生きてるだろう事はわかっていても、優思明避孕藥きる事を知る紫音にとって、子細な彼の状況が知りたかった。運ばれてきた餡蜜を食べながら、紫音は栄太郎を思う。潜伏してるだろう彼を見つけ出すのは容易ではない。なんとしてでも見つけだす。私は彼を助けに来たのだから。「お客はん、相席してもろてえぇやろか?」店の主人が申し訳なさげに頭を下げる。気付けば店は混雑していた。快く頷き、紫音は相席になった男の礼に軽く頭を下げると、また考え事を再開する。すると…「…随分薄情だね、楓」聞こえてきたのは、探し求めていた人の声で。紫音は目を見開いて目の前に座った男を見た。

「ふふっ驚いた君の顔、初めて見たよ」心底楽しそうに笑うその男は、確かに栄太郎だった。紫音はしばらく声を発せずに栄太郎を見る。半年振りの栄太郎は、何だか少し雰囲気が変わっていた。その違和感が髷にあるのだとわかると、紫音はようやく微笑む。「栄太郎さんこそ、髷結った姿なんて初めて見ました」「もちろん似合うでしょ。君が来たって事は、僕はもう死ぬのかな?」冗談めかして言う栄太郎。紫音は否定も肯定もせずに問い返す。「友人というのは死ぬ時しか会っては駄目なんですか?」その返しが嬉しかった。友人、という言葉を、紫音が言ったのは初めてだったから。「ふふっ少しは友人というものがわかってきたんだね。久しぶり、楓。元気そうだね?随分日焼けもしてるようだし」「基本的に外にいましたからね」「へぇ、という事は体はだいぶ良くなったのかな?」「やりますか?鬼ごっこ」今度は勝ちますと、得意げに笑えば、栄太郎は頬杖をついて団子を頬張った。「冗談。こんな暑い中、汗を流す気にはならないね。あーぁ、長州が懐かしいよ」「そういえば高杉さんは?」「晋作?知らない、最近見てないね、そういえば」「クスクス…相変わらずですね」それからしばらくたわいない話をして談笑した。気付けば混み合っていた店も空いていて、店主のねっとりとした視線が二人にくっついている。「あぁ明から様だと、絶対店を出る気にならないね」ふふんと笑みを浮かべて、水を頼む栄太郎。金のかからない注文に、店主は嫌そうに店の奥に入っていった。苦笑する紫音。「そんな顔をしないでくれるかな。僕だって早く出たいんだけど待ち人が来ないんだ。仕方ないさ」つい今しがた出る気がないと言ったくせに…と、紫音は少し店主に不憫さを感じながら首を傾げた。「待ち人ですか?「そ。この僕を待たせるんだからそれ相応の罰を受けてもらわないとね。紫音も知ってる奴らだよ」栄太郎が意味ありげに口角をあげたその時だった。「よぉーっす、栄太郎!!」「いやー暑っちいな、今日も」「あ、餡蜜十五杯と三色とみたらし三十本、ついでに葛切りもよろしく~」